そして宙に逢う
2025年3月初旬、みぞれまじりの週末。 美術家、五島三子男さん企画展『そして宙に逢う』の中で漂流した。 おそらく一生涯で、もう二度とは味わえないだろう空間だった。 前半生のハイライトとなるに違いない舞台を終えた瞬間、 なにかが終わるとしたら今日のような日がいい、と感じる。 各人が自由に五島さんの世界を感じとり表現してほしい、という指示書を受けて、五島さんのアトリエに何度かお邪魔をした。 そこで資料としてお借りした五島さんのエッセイが今もなお、目の前に忽然と、ある世界を描き出す。 ---------------------------------------------------------------------- …八丈島の風景に眩暈した時の感情と油照りの宝金山の草地で起こる感情は、とても近いものでした。…その感情は「不在の私を見ている私」のように思えました。 移り行く命と理解するのに多くの時間は要りませんでした。三浦半島で見た草地の眩しい光と、時に吹き抜ける風の中にあった私の問いかけは。三界をまたぐ私だったのだと気が付きました。 草原の中に大きな門があり 疑いもなく子供がくぐる 歌人であるわが子の一首ですが、島を訪れた頃の私と同じ年頃の歌と思うと感慨深いものがあります。… ---------------------------------------------------------------------- 本編を終えて今回の幸運な出来事にあらためて驚いている。 企画・演出のY劇場、五島さん、共演の岩間さん、若尾さん、としるさん、増田さん、とのめぐり逢わせにあらためて感謝し。 そして、いっしょに漂流いただいたご来場の皆さまに、心より。 「全体としてひとつの絵画」や 「あのギャラリーから一生抜け出せない人たちに見えた」 といった感想はいみじくも自分に当てはまり、まだ額縁のなかにいる感覚だが、ぼちぼち日常との折り合いを再開せねばと思う。 五島さんのような佇まい、 余計なものをそぎ落として透明な歌に近づけないだろうか。 あるいは対照的に。 横須賀において半世紀以上、常に時代の裏側最深部(アンダーグラウンド)にいるY劇場の人間臭さ、泥臭さにまみれて。 生活のなかで、また歌いたいなにかが纏わりついてくるだろうか。 今回、動画...