朝焼けの空に

 



 深く、深く、心呼吸をする。暗闇の中で。

 最高の緊張感に、押しつぶされて。無言になっている背中を見ている。
 そんな自分との対話を楽しんでいたこと。主人公に寄り添うように、すり減った日々を過ごしたこと。今回も自己を解体するチャンスをいただいたこと。
ありがたかったと思う。
 制作&共演のスタッフ、ご来場の皆様に深く感謝したい。

 Y劇場公演『朝焼けの空に』

 本作は、実際の事件をモチーフに、芸術の価値を真正面から社会に問いかける渾身の脚本だった。その台本に「曲をつけて、それから、背景に物悲しいギターを乗せて」との命題を前にして、ほどなくしてコロナに罹患し、咳き込みながらモンモンと試行錯誤したのち、結局、シンプルに楽器の生の響きそのものに立ち戻って、やっと稽古に復帰したのは公演一か月前。

 



  潰せ ゴキブリ

  それがなんだって言うのよ ワタシ 

  とことん 

  悪くない




 稽古ではじめて歌った瞬間から(自分も含めて)誰も笑い吹き出さないで歌い終えたことのなかったこれを、奇跡の本番で、ついに厳格に歌い終えて!
 それでもなお。
 心の隙間から満たされない何者かが、何度も出たり入ったりする夜は続く。


 彼女がバス停で待っていたものはなんだろうか。
 その答えを、脚本家は明らかにしない。
(ただ、ゴド(GOD)待ちというヒントはくれた)

 眠らない停留所も、いつか朝焼けに染まる。
 行き場のない街に、
 始発バスのブレーキ音が鳴る。


 そして、エピローグ。ゴド待ちの、一番好きな場面。

 


「来ないなあ」


「うん 来ないなあ」





「来るさ きっと」


「そうだね きっと来る」


「もし来なかったら?」


「ちょっと脅かさないでよ」


「そしたら、あれさぁ!……立ち上がるのさ」


「立ち上がってどうするのさ」


「そりぁ、歩き出すのさ」


 

 今もバス停に座って、朝焼けの空に、夢を見ている日本人がいる。
 まだまだ、眠れるわけはない。


「歩き出す。いいねえ」


 楽しみはこれからだ。










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