人肌 ~バンコクにて~
羽田を離れてバンコクに降り、2日間滞在、そこからブータンに飛びホテルに着くまでの計66時間。2回の夜行便を挟んだこともあり、この間の睡眠は7時間あったかないか。意識はなくしてないが途中からなにかが鮮明でない。
不慣れな海外だというのに旅の同行人とは、現地のホテルで待ち合わせという工程。到着後、たしかに一瞬だけ、アジアの空気が薫った気がした。しかしすぐに慣れた、というか懐かしさすら感じてくる。
イミグレーション。帽子を脱げ、というジェスチャーを、前に進め、取り違えて何度か叱られたことを除いてスムーズに突破し、税関ゲートも係員が口しゃべったままこちらを向かない横を無言で過ぎる。
3番出口から日本語の分かるドライバーを拾い、想像以上にスンナリと動き出す。微笑みの大きいオヤジだった。
タイは何回目?
(手と首を振る)
(手と首を振る)
うそ~。もう大ベテランに見えるよ。冗談ね。
最後の冗談ね、は別にいらないけどなと思いながら、寝不足の苛立ちが少しずつ溶かされていくのが分かった。
托鉢の坊さんへのお布施。常に卵の黄身を持ち歩い猫や鳩へあげるだけではない、食べ残しをまた回収して袋に戻す、丁寧さ、優しさ。幽霊を信じているところ、どの所作を見ても魂のきれいな敬虔な仏教徒であることが感じられる。
ホテルのチェックインまで見送ってくれた。
仕事とはいえ、この国の第一印象を決定づけた彼の微笑みは忘れない。
ホテルのチェックインまで見送ってくれた。
仕事とはいえ、この国の第一印象を決定づけた彼の微笑みは忘れない。
国鉄レール |
猫大国 |
踊る少女 |
マーケット |
oasis を歌う青年 |
同行人合流後、日本語看板ばかりが立ち並ぶネオン街へ。夜でもうだるように暑い。ぞろぞろと吸い込まれるお腹の出たジャパニーズ。薄暗いピンクの部屋にて微笑む女性たちに、なぜか自分も微笑みで応対する。
「ほほえみには、ほほえみ」これしかない。唯一の対話スキル。
「ほほえみには、ほほえみ」これしかない。唯一の対話スキル。
当然店内は No photo! だが堂々とほほえみで突破
(場合によってはドブ川にプカプカ浮いてたかも)
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同行人もどこかに消えたら、ひとりになって静かに宿で眠ろうと密かに帰り道を確認しながら歩く。しかし、何軒回っても、誰も指名しない。終わらぬ夜を歩き続ける。
タイビューティの誘惑を縫って歩く。なかでもニューハーフときたらすこぶる美しい。体操競技のランニングを召した若いソフトマッチョあんちゃんたちも美人。右を向いても左を向いても甘い微笑み。日本との寒暖差と、ほぼ徹夜からの歩きどおしで意識は薄らいでいく。
これで最後だというお店。
(以下、他意はない)
これで最後だというお店。
(以下、他意はない)
あなたどこから来たの?
とてもかわいいのね
わたしを持ち帰って
2でいいの(指を2本立てる)
どうして?
1でもいいの(指が1本になる)
どうしてわたしに冷たいの
手が冷たいの?(手をあたためてくれる)
手が冷たいの?(手をあたためてくれる)
どうしてそんなに冷たいの?(ひたすら手をあたためてくれる)
0でいいから連れていって(輪っかをつくって微笑んでいる)
ラストに自分の首筋を舐めまくったのち、Yes or Noと言われたとき、はじめて己が微笑みの罪を知った。
静かに、ノーサンキュー、と答える。
ラストに自分の首筋を舐めまくったのち、Yes or Noと言われたとき、はじめて己が微笑みの罪を知った。
静かに、ノーサンキュー、と答える。
彼女は微笑んだまま。
手を顔にあて、ずっと閉店まで、ずっとあたためてくれた。
人肌って、ぬくいんだなぁと感じた。
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