基礎疾患

 徐々に、外堀を埋められていく、ような気がする。
 腹痛から始まった下痢と微熱が数日続き。次第に食欲不振。動悸。胸の不快感。喉の痛み。

 県の新型コロナ専用ダイヤルに電話するも、マニュアルに忠実そうな声で医者の診察をすすめられるのみ。町医者の診療時間は終わっている。家にいても不安なニュースばかり入るので、夜の浜辺をとぼとぼ歩いていた。帰り路、偶然、スーパーから出てくる近所のかかりつけドクターに出会う。
 熱があっても診るから、明日来てください、という。その一言だけでも幾分落ち着く。

 その夜、寝ようにも眠れないので、おもむろに身辺整理を始める。そうこうして23時過ぎ、微熱を超える発熱に至り救急センターへ向かう。
 入院支度もばっちり整えて。
 ブナにはたっぷりのえさを置いて。

 物々しい厳重体制。外にはPCR検査センターが稼働開始を待っていた。
 待合室で待つ時間が長く、ただただ壁が白かった。

「風邪と思われますが、あした、かかりつけ医に診てもらってください。
 解熱剤と整腸剤を処方しておきます」

 そして翌日のかかりつけ医の診察も、「風邪」と診るのが自然とのこと。誰もが気持ちを落ち着かせるような言葉を選んでいる気がして、ありがたくもあり、怖ろしくもある。

 当然ながら職場は出勤停止となり、それからのほぼ毎夕、母が食事を届けてくれる。
 人には会う気にもなれない今、ただそれだけが人との繋がりであるかのように。


 この夜、どれだけ多くの人が、一人で自宅療養する不安のなかにいることだろう。
 とくに基礎疾患を持っている多くの同胞が。
 




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